現場エンジニアが生成AIに触れて感じた“安心感”と”危機感”
はじめに:AIが当たり前になる未来
初めまして。西原と申します。
普段はSESで客先常駐して働いており、自社内ではチームリーダーとしてメンバーと関わってモチベーション維持などに頭をひねっています。
さて、ここ1〜2年で、生成AIの技術の発達とともに爆発的に話題になりました。ChatGPTに代表される対話型AI、GitHub Copilotのようなコード支援ツールが実用段階に入り、使用している現場も増えてきている印象です。
私自身、経験のない言語などでのコーディングする機会に個人的にも導入し、今では公私ともになくてはならない存在です。
ただ、まだ実際に業務で使ったことがない方からすると、「AIって本当に役立つの?」「自分の仕事が奪われるのでは?」という不安もあるのではないでしょうか。
この記事では、私が実際に複数の生成AIツールを触ってみて感じた“安心感”と“危機感”について、率直にお伝えしていきたいと思います。
まずは触ってみた──3つのAIツールを比較して見えたもの
今回試したのは以下の3つのツールです。
- ChatGPT(GPT-4o):文章の生成や要約、スライドの下書き、画像生成など多用途に活躍
 - GitHub Copilot:コード補完とテストコード生成、デバッグ支援に活躍
 - Junie:IntelliJを提供するJetBrains社によるIDE統合型AIエージェント
 
これらを日々の業務──設計書作成、コーディング、仕様の言語化、会議資料の下書きなど──に投入してみました。
最初の印象は「意外といろんなことができる」「思ったよりも実用的だった」でした。とはいえ、完璧なものができるわけではありません。試行錯誤しながら、少しずつ“得意・不得意”が見えてきた、というのが正直なところです。
これが便利だった!良さを感じた瞬間
■ ChatGPTの使い所とメリット
- 会議用資料の下書き、文章の要約、Marpでのスライド作成など、文章作成系の業務が圧倒的に効率化
 - 分からないことを気軽に質問できるため、調査時間を大幅に短縮できる
 - コーチング的な問いかけや傾聴力があり、プライベートな相談にも寄り添ってくれる印象
 - カスタマイズ性が高く、UIも直感的で扱いやすい
 
■ GitHub Copilotの使い所とメリット
- コード補完の精度が高く、開発スピードが大幅に向上
 - 日本語のコメントや説明文の自動生成も優秀で、ドキュメント作成にも活用可能
 - エラーメッセージに基づく修正提案が秀逸で、デバッグがスムーズ
 - エージェントモードでは、適切な場所にprint文を入れてくれるなど、実用的な補助機能が多数
 
■ Junieの使い所とメリット
- JetBrains IDEとの連携がスムーズで、導入が容易
 - テストコードの自動生成など、実務向けの支援に強い
 
でもちょっと違和感──手放しで信用できない理由
便利だと感じる一方で、「これはちょっと危ない」と思う瞬間も多々ありました。
ChatGPTに感じた違和感
- 回答の正確性にムラがあり、60〜70点レベルの情報精度
 - スレッドが長くなると、過去の文脈が混ざって精度が落ちる傾向がある
 - 自信満々な口調で間違った情報を提示されると、気づかず鵜呑みにしそうになる
 
GitHub Copilotに感じた違和感
- 一見正しそうなコードでも、バグを含んでいたり既存仕様と合っていないことがある
 - 修正提案が一つ前の修正を無視して無限ループするケースがある
 - 新規ファイルをプロジェクト外に作成してしまうことがあり、後から手動で調整が必要
 
Junieに感じた違和感
- プロジェクト全体を毎回走査しているようで、処理が重く、応答が止まることがある
 - 一部のコマンド(例:ls)実行に未対応で、応答エラーにつながる
 - トークン制限が厳しく、途中で止まり再実行が必要になるとすぐに消費されてしまう
 
これらの課題から、「補助としては有効だが、判断と責任は人間にある」という前提で使う必要性を改めて強く感じました。
使ってみて分かった、AI時代に求められる“人の価値”
AIに触れたからこそ、逆に「人間の強み」が明確になったと感じています。
上記の通り、AIはあくまで補助であり判断と責任は人間が担うものです。
生成AIは仕組み上人間の命令や指示に忠実な言動をするのではなく、「人間の指示に違和感のない返答」を返します。
たとえば「ここ以外からは参照しないで」と指示しても、やり取りが進む中で参照してしまうことがあります。
「忘れないで」と伝えても、会話が進むうちにその前提を忘れているような応答が返ってくることもあります。
生成AIは長期的に一貫性を守ることや厳密な文章の理解が苦手だったりするのです。
では、生成AIが得意なことはなんでしょうか。
あいまいな仕様の言語化、思考の壁打ちといったこれまでシステム化が難しかったこと。モックなどのクレイモデルの作成といった人間の思考や言動の補助、異なる視点での提案などより深い思考、施策へ進めること。
AIと共存していく人の役割とは、「方針を決める」こと、「実際に進めていく」こと。リーダー、マネージャーに求められるスキルがより活かせる時代になっていくのだと感じます。
長期的な一貫性の保持や厳密な文章の理解といった課題についても、プロンプトの管理やセッション分けと言った工夫について知り、活用していくことで安定性を高めていくことができるのです。
リーダーとして印象に残っている場面があります。
ある時、チームメンバーにミーティングのファシリテーションをお願いしたところ、以前私がMarp形式でスライドを作成していたのを思い出し、それを参考にしながらChatGPTを活用して資料を整えてくれました。
内容としては構成のほとんどがそのまま使えるレベルで、最終的な修正も数分程度。資料作成に対する苦手意識を乗り越えるきっかけとしても有効だったようです。
「資料づくり=重い仕事」になりがちな場面で、AIが“最初の一歩”を代わってくれる価値は非常に大きいと感じた出来事でした。
「使う側」に立つために今できること
実際の現場でも、生成AIに助けられた場面がありました。
たとえば、Spring Bootアプリケーションでファイルアップロードを扱っていた際、ある日アップロード上限を超えたリクエストが原因でTomcatがリクエストを拒否する現象が発生しました。ところがログには明確なエラーが残らず、再現条件すら特定できずに調査に時間を取られていました。
ChatGPTに対して、アプリの構成やエラーの有無、試したことを逐次伝えていく中で、「Tomcatのリクエストサイズ制限」や「Springのmultipart設定」などの可能性を提示してくれました。
さらに、再現のためのリクエスト例や設定項目も教えてくれたことで、最終的には意図通りの再現と、明確な対処(spring.servlet.multipart.max-request-size の設定調整)にたどり着けました。
一人で悩んでいたらたどり着けなかったかもしれませんでした。「原因を一緒に探してくれる存在」として、生成AIが技術調査の並走者になってくれたことは、安心感を強く感じたこともあり、今でも印象に残っています。
「AIが怖い」と感じる感覚は、世代間ギャップに近い感覚ではないでしょうか。知らない相手・理解のできない相手を恐れるのは人間の性質です。だからこそ、相手を「知る」ことや「理解」することが大切で、それは業務においても変わりません。
上記の例のように、並走する仲間のように関わっていければ私たちの助けになってくれると信じています。
とはいえ、最初から信頼関係を気づくのは難しい。
まずは、小さなことから触れてみることを始めてみてはいかがでしょうか。
- 小さな業務から試す(メモ整理、文章下書き、定型資料など)
 - 定型業務のバッチ処理化や、手順のドキュメント化
 
最初のおすすめとしては「GitHub Copilot」です。
テストコードや文章の自動補完機能は例え誤っていたとしても、その内容を見直し、正しい形を考えるきっかけにもなるため非常に有用ですし、Microsoftの製品であることからセキュリティの信頼度も高いと思います。
私自身も「触ってみて初めて理解できた」ことが多く、最初の一歩が不安を軽くする鍵だと感じています。
また、管理職の方々には「ChatGPT」のような対話型AIを触ってみてほしいと思います。
寄り添う技術や傾聴などメンバーと相対する上での技術は目を見張るものがあり、私自身も日々助けられたり勉強させてもらっています。
まとめ:恐れずに一歩踏み出す、その先に見えるもの
生成AIは、決して万能ではありません。
むしろ、出来ないことの方が多いとも言えます。
「仕事を奪われる」のは人間同士でも同じことが言えます。
怖れ、遠ざける。それも戦略の一つでしょう。
しかし、AIと向き合い、「協働」してより良い未来を創る。
その意識の転換が、これからの時代の可能性を大きく広げる第一歩だと私は思います。