AIに代替できないネガティブ・ケイパビリティという考え方

2025/11/18
西原 将光

1:はじめに

にしはらです。

前回、AIの利用推奨のブログを執筆しましたので、今回は現在の「AIに代替できないこと」であるネガティブ・ケイパビリティという能力についてご紹介したいと思います。

2:ネガティブ・ケイパビリティとは何か

「ケイパビリティ」というと、ビジネスにおいて企業の「全体の組織力」や「組織固有の強み」の指標として用いられます。そこにネガティブという言葉を付けるため、弱い組織を指すのでは?という風に見えるかもしれませんが、「ネガティブ・ケイパビリティ」は組織に関するものではなく、「答えの出ない不確実な状況や曖昧な状態に耐え、そこで思考を深める能力」のことです。

歴史的には19世紀のイギリスの詩人ジョン・キーツによって提唱された概念で、第二次世界大戦後の心理臨床の場で広まり、現在はVUCAの時代で「答えが見つからない問題」や「答えが存在しない問題」に対処する必要が出た中で、「すぐに答えを出さず、据え置きしておく力」として、心理カウンセリングの現場で使われているそうです。

3:ポジティブ・ケイパビリティとの違い

「ネガティブ・ケイパビリティ」と逆の思想は「ポジティブ・ケイパビリティ」と呼ばれており、効率的に答えを出す、タイムパフォーマンスよく理解する、迅速な問題解決を目的とした能力を指します。

まさに生成AIの目指すところと言えるでしょう。その反面、深い探求や答えに時間をかけるべきことを強引に短絡的な答えを出してしまいハルシネーションが起きる要因にもなります。問題に腰を据えて向き合い続け、最適解を更新し続ける。それが「ネガティブ・ケイパビリティ」の有用性と言えると思います。

4:答えを諦めるということではない

間違えてはいけないのは、据え置くのも「今」答えを出さないだけで、答えを出すことを諦めるということではないことです。

据え置くことでアンテナを張り、より良い答えを模索・探求し続けること。目の前の「答え」を鵜呑みにせずに、それが何を表すのか。本質は何なのか。それを問い続けること。「クリティカルシンキング」に連なるマインドセットと言えるでしょう。

5:エンジニアとしての実践例

学習における実践

エンジニアとして新しい言語など学習の際に、分からないところを分かるまで考え続けるより先に進んでいき、後で分かるようになるのを待つ。といった考え方がこれに該当します。

DDDの先駆者である増田亨さんもウェビナーで仰っていました。「『問』のまま置いておく。」というのは難解なシステム設計などのタスクにも効果的です。

マネジメントにおける実践

そしてマネジメントを行う際には、背景、歴史、意思決定に至った道程が難解で複雑かつ把握が困難なシステム以上に答えを導きづらい対人支援という分野こそ、仮説や先入観にとらわれない向き合い方である「ネガティブ・ケイパビリティ」が重要になってきます。

6:バランスの重要性

もちろん、「ポジティブ・ケイパビリティ」をなおざりにしていいわけではありません。

「ポジティブ・ケイパビリティ」で出た答えを「ネガティブ・ケイパビリティ」の観点で吟味し、蒸留させ、より良い答えに昇華していく。車の両輪のようなバランスを持って限られた時間の中で意思決定を進めていく。

AIの発達で答えがすぐ出せる現代こそ、その答えの質を向上させ続ける意思と勇気がAIに代替できない人間の価値であると言えると私は考えます。

参考文献

あえて答えを出さず、そこに踏みとどまる力‐保留状態維持力対人支援に活かす ネガティブ・ケイパビリティ | 田中 稔哉 |本 | 通販 | Amazon