【運用保守 × アジャイル】インドでは進化、日本では停滞?運用保守担当こそ知っておくべきアジャイルの考え方

2025/12/02
Nakatani Taichi

この記事を読んでわかること

  • 運用保守に求められる“価値提供”の考え方
  • アジャイル開発とDevOpsが運用担当に与える影響
  • インドと日本の金融業界から見る両国のちがい

運用保守担当ってどのようなイメージを持たれています??

運用保守と改めてこの言葉を見てみて皆さまどのようなイメージを持たれますでしょうか?
Google検索に運用保守のワードを入れてみると以下のように出てきます。

IT業界に限った話ではないと思いますが、「運用保守」という言葉には、どうしてもネガティブな印象がつきまといます。Googleで検索してみても、「底辺」「やめとけ」なんて言葉が出てきますよね。
一方で、“キャリアアップ”の文脈でも語られることがあるのも事実です。

実際、運用保守の仕事は細分化されていて、トラブルの切り分けから対処、お客様への再発防止策の説明まで、担当範囲はとても広いです。トラブルが発生すればすぐに対応が求められますが、私はこの経験を通じて、システムをより深く理解する良い機会にもなると感じてきました。

……とはいえ、こうしたことを冷静に言えるのは、今の自分が現場の担当でないからかもしれません。
もし担当の立場だったら、いつ鳴るかわからない社用携帯を恨めしく感じ、深夜の障害報告の電話に胃が痛くなるでしょう。お客様への説明や再発防止策の報告書作成にも緊張が伴い、休まる暇はありません。気づけば、仕事への姿勢が“守り”に傾いてしまうこともあります。

今、運用保守担当に求められること

どれだけ大変でも、運用保守の価値は確実に存在します。
では、今この仕事に求められていることは何でしょうか?

ITIL4では、「価値を提供すること」が中心原則として掲げられています。運用保守でも同じです。まず、「誰に」「どんな価値を」提供しているのかを明確にすることが出発点になります。

サービスは目的そのものではなく、“利用者が価値を感じるための手段”です。
だからこそ、利用者がどんな結果を求めているのか、どんな背景を持っているのかを理解することが大切になります。さらに、顧客体験(CX)を意識して、通知・画面表示・対応フローをわかりやすくすることで、「価値を感じる瞬間」をつくることができます。

つまり、運用保守で問われるのは「システムが動いているか」ではなく、「その運用がどんな価値を生んでいるか」。そして「その価値を継続的に高められているか」という姿勢です。

運用保守担当だって、システム開発を知っておく必要がある!!

運用保守を担当する人にとって、システム開発の知識は“持っていて当たり前”の時代になりました。
今のシステムは機能追加や他システムとの接続でどんどん複雑化しています。障害対応では、設計書や仕様書を理解したうえで判断する力が欠かせません。

アジャイル開発が主流になりつつある今、開発と運用は明確に分かれた役割ではありません。継続的な改善を“共に担うチーム”としての動きが求められています。短いサイクルで機能が追加される中、運用担当はリリース内容を正確に把握し、ユーザーの声を開発にフィードバックする重要な役割を果たします。

開発を理解していない運用担当は、変化に取り残され、結果として障害の長期化や改善の遅れを招きかねません。
一方で、開発知識を持ち、ウォーターフォールやアジャイルの考え方を理解していれば、運用の現場からも提案ができ、DevOpsによる継続的改善のサイクルを自ら動かせるようになります。
運用保守こそ、“進化の現場”になると私は考えています。

金融業界を見てみて@インド

先日、インドで長年金融システム開発をしているPMの方と話す機会がありました。
彼によると、5年以上前まではウォーターフォール開発が主流だったものの、今はアジャイル開発が完全に主流になっているそうです。

理由を聞くと、インドの金融サービス市場が規制緩和で一気に国際化し、変化へのスピードが求められるようになったから。数年かけてウォーターフォール開発をしていたら、他の外資系金融機関に市場を奪われてしまう――そんな危機感が業界全体にあるのだとか。

実際、ここ数年で“インド資本ではない”金融機関が次々と新しいサービスを始めています。

  • 英国発フィンテックのレボリュート(Revolut)*注2
    2024年4月、RBI(インド中央銀行)からPPI(プリペイド決済)に関する「原則承認」を取得しました。続いて2025年4月、国内向けプリペイドカード/ウォレット(UPI連携を含む)の「本承認」を受け、インドでの“国内”決済サービスを正式展開可能になりました。
  • オランダ(Prosus)系のPayU(決済)*注3
    2025年5月、RBI(インド中央銀行)から「オンライン・ペイメント・アグリゲーター(OPA)」としての最終認可を取得しました。これにより、インド国内加盟店向けに決済代行サービスを正式に継続・拡大展開可能になりました。
  • 英スタンダードチャータード銀行(Standard Chartered)*注4
    2024年10月22日、ムンバイに「First International Banking Centre for Global Indians」を開設しました。特に富裕層・グローバルに資産を持つインド人をターゲットにした銀行サービスを新設しました。

    これらのスピード感はインドを象徴するものかもしれません。

日本では外資参入が難しい!?でも悠長なことは言ってられないかも。

一方、日本では銀行業を営むために、外国銀行であっても厳格なライセンス取得が必要です。
国内での支店設置や営業活動、預金受入れを行うには銀行法に基づく認可が欠かせません。特に日本居住者を対象とした勧誘や募集行為を行う場合には、国内銀行ライセンスが必須です。*注5

また、外国銀行が日本で銀行業務を行う場合について、日本の内資企業が銀行業務を開始する場合と比較して厳格な承認が必要です。例えば、EBC(European Business Council)の文書では、「日本の銀行の場合は簡易な届出で済むが、外国銀行の場合は金融庁の特別な承認が必要」と明記されています。*注6

さらに、日本では銀行法や金融商品取引法などの厳格な法制度が整備されており、これらに基づくライセンス・登録要件が課されています。*注7
加えて、資金移動サービス、前払式支払手段、暗号資産交換業、電子決済手段関連事業に関して銀行法および資金決済法には、これらのサービスを外国企業が日本居住者に提供する場合についての明確な規定はありません。
しかし、外国企業が日本国内で資金移動サービスのサービスを行う場合には、銀行法お資金決済法に基づくライセンス要件が発動します。
また、資金決済法は明確に、登録を受けずに日本居住者に対してこれらのサービスを行うことを禁止しています。*注8

ここまで、外国資本の金融機関が日本市場に参入が難しい面を紹介しました。
このまま、規制強化が続くようにも見えますが、金融庁は2025年6月に公表した「Monitoring of Foreign Bank Branches and Foreign Securities Companies」で、米欧の大手銀行グループの日本支店や外国証券会社の活動を注視していると明記した。同報告では、外国金融機関がグローバルネットワークを活用して日本国内外の顧客支援を強化しており、日本での事業活動が増加傾向にあると指摘しています。*注9

また、英国フィンテック企業Wiseが2024年10月、日本の銀行決済ネットワーク「全銀システム」への直接接続を実現しました。これにより、従来は国内銀行を経由していた決済処理を自社ルートで行えるようになり、外資系企業による金融インフラへの直接アクセスが進展しました。この動きは、フィンテック分野における外資系企業の日本市場での拡大を象徴する出来事のように見えます。*注10

外資が日本の金融市場に手を伸ばす――この動きは、今までの金融市場の流れと比較して確実に新しい時代の兆しです。
運用保守の世界にも、“変化に対応する力”がこれまで以上に求められることは間違いありません。

“止めない”守り仕事から脱却!これからの運用保守担当は攻めていこう!

運用保守はネガティブな印象を持たれがちですが、ITサービスを止めずに支える重要な仕事です。ITIL4が示す「価値提供」の視点を持ち、開発知識を備えた運用担当は、システムの品質と顧客体験を同時に高められます。海外に目を向ければ、インドでは変化対応力を武器に外資が進出しサービスが拡大しつつあります。日本でも規制は厳しいものの、外資系フィンテックの動きが加速しています。運用保守は、単なる「システムを止めない仕事」ではありません。
ITIL4が示す価値提供の視点、アジャイルやDevOpsの発想を取り入れることで、運用担当はビジネスの成長を支える“攻める存在”になれます。
今こそ、「守りの運用保守」から「価値を生む運用保守」へシフトする時です!!

参考・引用元

注1 
サービスのもたらす価値に着目する 〜 ITIL4に基づいて考える 〜
出典:MMM Corporation Blog(2025年2月5日)
https://blog.mmmcorp.co.jp/2025/02/05/itil4-guiding-principle-focus-on-value


注2
Revolut India receives in-principle authorization from the Reserve Bank of India (RBI) for Prepaid Payment Instruments (PPI) license
出典:The Digital Banker(2024年4月)
https://thedigitalbanker.com/revolut-india-receives-in-principle-authorization-from-the-reserve-bank-of-india-rbi-for-prepaid-payment-instruments-ppi-licence

*注3
PayU gets RBI approval to operate as Online Payment Aggregator in India
出典:IBS Intelligence(2025年5月)
https://ibsintelligence.com/ibsi-news/payu-gets-rbi-approval-to-operate-as-online-payment-aggregator-in-india/

*注4
Standard Chartered opens First International Banking Centre for Global Indians to offer customised multi market wealth solutions
出典:Standard Chartered India(2024年10月22日)
https://www.sc.com/in/sc-opens-first-international-banking-for-global-indians/?utm_source=chatgpt.com

*注5
How do the licensing requirements apply to cross-border business in your jurisdiction?
出典:Baker McKenzie「Global Financial Services Regulatory Guide – Japan」
https://resourcehub.bakermckenzie.com/en/resources/global-financial-services-regulatory-guide/asia-pacific/japan/topics/how-do-the-licensing-requirements-apply-to-cross-border-business-in-your-jurisdiction

*注6
Foreign Bank Agency Business
出典:European Business Council Japan(EBC Digital White Paper 2024)
https://ebc-jp.com/digital-white-paper/issues/financial-services/banking/foreign-bank-agency-business/

*注7
Banking Act and related Laws and Regulations
出典:一般社団法人全国銀行協会(Japanese Bankers Association)
https://www.zenginkyo.or.jp/en/banks/banking-act

*注8
How do the licensing requirements apply to cross-border business in your jurisdiction?
出典:Baker McKenzie「Global Financial Services Regulatory Guide – Japan」
(注5と同一出典、本文中で再参照)
https://resourcehub.bakermckenzie.com/en/resources/global-financial-services-regulatory-guide/asia-pacific/japan/topics/how-do-the-licensing-requirements-apply-to-cross-border-business-in-your-jurisdiction

*注9
Monitoring of Foreign Bank Branches and Foreign Securities Companies
出典:金融庁(Financial Services Agency, Japan)2025年6月30日公表
https://www.fsa.go.jp/en/news/2025/20250630/20250630.html



*注10
Wise becomes first foreign firm to gain direct access to Japan’s payment clearing network
出典:Reuters(2024年10月17日)
https://www.reuters.com/business/finance/wise-becomes-first-foreign-firm-gain-direct-access-japans-payment-clearing-2024-10-17/