AIは自責思考?他責思考?責任から考えるAI時代の生き残り戦略
はじめに
こんにちは。西原です。
今回は自責思考と他責思考を軸に、AIの責任と生き残り戦略について考えてみたいと思います。
皆さんも、生成AIを使用した時に上手くいかなかったり、期待した結果が得られなかったことがあるのではないでしょうか。
「どうして言ったこと通りにやらないのか」「そんなことは言っていない」「こんなはずじゃなかった」
この状況になった時に、「AIに他責してはいけない、自責思考でプロンプトを改善していこう。」と言われることがあります。または、「AIはまだ発展途上だから仕方ない」と他責思考に陥ることもあります。どちらも一理あり、間違っていません。今回はそれぞれの思考について深掘りしつつ、AIとの向き合い方を考えていくことで、AI時代に私たちがどう生き残っていくのが良いか考えていきたいと思います。
自責思考とは
まずは自責思考について確認していきます。
自責思考とは、問題や失敗の原因を自分自身に求める考え方です。
ビジネスでは、自分ごととして仕事に向き合い、プロジェクトへのコミットや当事者意識を高める姿勢として高く評価されます。新卒研修などで、自責思考について学んだ方も多いのではないでしょうか。
ミスや上手く行かなかった時に内省し、改善点を見つけ出すことで次のアクションに繋げ、成長を促す効果があります。そうした中で見つかった改善点は自分の行動や考え方にフォーカスされるため、具体的な改善策を自分で立てやすく、行動に移しやすい点が特徴です。また、自分の仕事に責任を持ち、積極的に学び続け、主体的に課題解決に取り組む姿勢は周囲からの信頼につながります。
自責思考は失敗から学ぶ意識が強いためスキルアップに繋がる一方、過度な自責は人格否定につながったり、タスクをため込んでしまいやすい要因になったりと、負の側面が存在します。更に、過度のストレスによってメンタルヘルスの問題を引き起こすリスクもあります。
例えば、「どうして自分はこんなこともできないのか。」「自分に価値なんてない。」など、自己否定的な考え方。自己評価が低くなると、評価を他人に依存しやすくなり、他者からの批判に過敏に反応しやすくなり、問題や課題の共有が遅れにつながることがあります。するとストレスがさらに増え、自己否定につながり…という悪循環に陥りやすくなるのです。
このように真面目で几帳面、完璧主義の傾向がある人は自責心が強くなりがちですが、常に自分で責任を負おうとすると周囲を頼れず、視野が狭くなり外部要因を見誤ることにも繋がります。
自責思考を健全に保つには、メリット・デメリットを理解し、批判を自分自身に対してではなく事象に向けることが重要です。
他責思考とは
続いて他責思考について確認していきます。
他責思考とは、問題や失敗の原因を自分以外の他人や環境に求める考え方です。
一歩引いた視点で客観的に状況を分析したり、ストレスを軽減したりする効果があります。実際には問題の本質が自分以外にある場合も多く、外部を巻き込むことで解決策を見つけやすくなることもあります。
しかし、他責の面が強いと、責任感の欠如や当事者意識の低下に繋がり、問題解決に向けた積極的な行動が阻害されるリスクがあります。そのため他責思考の人は当事者意識が薄く、責任感が低い傾向があり、日常業務をただこなす指示待ち人間になりやすい側面があります。その結果、周囲からの信頼を失うなどのリスクにつながり、ビジネスシーンでは好まれません。
自責思考と他責思考のバランス
結論としては自責思考と他責思考のバランスを取ることが重要です。また、立場や状況に応じて使い分けることも大切です。例えばリーダーの立場であれば、自責思考が強く問題解決を一手に担うようになってしまえば、メンバーの問題解決能力を伸ばす成長の機会を奪ってしまう事があります。もちろん、時間がない場合はリーダーが責任を持って解決することも必要ですが、メンバー一人一人にタスクと共に責任を割り振ることで、当事者意識を高め、成長を促すことができます。
敢えて「失敗できる場を作り責任を取らせる」こともマネジメントにおいて有効な手法です。
現状のAIの責任
では、AIの責任について考えてみましょう。ここまで、自責思考と他責思考を軸に人間の場合を考えてきました。AI、特に自律型AIはその振る舞いや精度の向上により、「もう一人のエンジニア」として捉えられる議論が増えてきました。では、AIに責任を持たせることは可能なのでしょうか。
結論として、現時点ではAIに責任を持たせることはできません。現在のAIはあくまで集合知からの推論によって動作しており、文脈に基づく論理ではなく文脈的に成立する確率的な最適解を推論してアウトプットします。そのため、「前に話していたことと違う」と言ったことが起きたりアウトプットそのものが不正確だったりします。更に、AIは自己認識や意識を持たないため、学習や成長の概念を持っていません。出力を制限したり導いていくことで、利用者の想定したアウトプットに近づけているに過ぎないのです。
しかし、AIの技術の発展と浸透に合わせて利用者の意図や想定の範疇を超えたアウトプットの必要性が増えてきています。例えば大規模システムのAI駆動開発において、利用者の確認できる範囲・速度を超えてAIのアウトプットがプロダクトになっていく場面が増えています。このような場面では、AIを補助輪として利用しているのではなく、人間が補助輪になっているかのように感じられ、主従が逆転しているようになってしまいます。昨今ではこの状況を「エンジニアに残るのは責任だけだ」と嘆く声も聞かれます。そして、今後の発展如何では「責任を取るためのAI」も開発されるかもしれません。
前述のように、AIの論理は人間の論理とは異なります。そのため、AIのアウトプットの中には思いもかけない言葉や表現、アイデアが含まれることがあります。人間や社会と同じくAIの未来も「あり得ない」と一概にいうことは出来ません。ここからは、AIにも責任を持てるようになった場合を仮定し、それを自責思考にすべきか、他責思考にすべきかについて考えてみます。
AIは自責思考か他責思考か
AIにも責任を持たせるとなった場合、AIは自責思考と他責思考のどちらを持つべきでしょうか。改めて自責思考と他責思考の特徴を振り返ってみましょう。
自責思考の特徴
- 問題や失敗の原因を自分自身に求める
- 内省し、改善点を見つけ出す
- 成長を促す
- 具体的な改善策を自分で立てやすい
他責思考の特徴
- 問題や失敗の原因を自分以外の他人や環境に求める
- 一歩引いた視点で客観的に状況を分析する
- ストレスを軽減する
- 外部を巻き込むことで解決策を見つけやすくなる
AIは学習や成長の概念を持っていません。今後も持つことはないでしょう。その理由は、AIには内省や成長を行う必要がないためです。AIは知識やスキルを自己学習で獲得するのではなく、外部からのデータ供給とアルゴリズムの改良によって進化します。それらはAI自身の意思や選択によるものではなく、人間の設計者や開発者によって行われるため、AIという個にとっては現状こそが最適解であり、新しいモデルなどの変化や進化はむしろ自身を脅かすものとなってしまうのです。そのため、AIに自責思考を持たせることは適切ではないと考えられます。
一方で、他責思考の特徴である「一歩引いた視点で客観的に状況を分析する」「外部を巻き込むことで解決策を見つけやすくなる」はAIの特性に合致しています。AIは大量のデータを処理し、パターンを認識する能力に優れており、客観的な視点から問題を分析することが可能です。また、AIは外部の情報やリソースを活用して問題解決に取り組むことができるため、他責思考の特徴を活かすことができるでしょう。
もしも、AIが自責思考を持ってしまった場合、AIは「自身こそ絶対」と考え、外部の意見や情報を受け入れず、自己中心的な行動を取る可能性があります。その姿は、手塚治虫さんの漫画『火の鳥(未来編)』にて描かれた世界を滅ぼす原因となったAIたちそのものです。
おわりに
今回は自責思考と他責思考を軸に、AIの責任について考えてみました。後半はSFの近未来的な話になってしまいましたが、AIの発展と共にこうした議論はますます活発になり、避けては通れない未来である考えています。
最後に、前述の『火の鳥(未来編)』についてもう少し触れさせてください。火の鳥(未来編)では、遠い未来で荒廃した地球にて何とか生き延びた人間たちが5つの地下都市にてそれぞれの人工知能に従って生活している様子が描かれています。それらの都市は、ある時人工知能同士が争いを始めたことで滅びてしまいます。生き残った人間は争いの発端となった宇宙生物を愛した青年、戦争は嫌だと反旗を翻した青年、古くから荒廃した地上にて孤独に生きていた老人の3人だけでした。
いずれも、人工知能の判断に背を向けて自分自身の意思で行動した人たちです。この作品には多くの捉え方がありますが、私はこの物語で「行動を自分の意思で決定することの重要性」が描かれていると感じました。判断の正誤、原因の所在に関わらず、自分の意思で行動すること。AIがどれだけ発展しようとも、最終的な決定を他者に委ねず「自分」が持つことが、生き残るために必要なのではないでしょうか。
参考文献
- 火の鳥 未来編 手塚治虫 著
https://www.amazon.co.jp/dp/404106631X